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残暑見舞い〜w

wrinkles.



 陛下、と呼ばれて眉間に皺を刻む。
 そのまま無視して半分着崩れした浴衣の前身ごろを合わせ掴んだ。
 もう空には橙と濃紺が入り混じり、辺りはだいぶ暗くなっているのだがやはりこの姿は目立つ。
 まぁ、それ以外でも目立つ因果はいくつかあるが。
「陛下、一人で先に行かないでください」
「・・・・」
 そう、そもそもこいつがいるから目立つのだ。
 今朝方城下でお祭がありますから、と誘われていそいそと出掛けたまでは良かったが、まさかこいつがあんな企みをしていたなんて。
 思い出すだけでも顔が火照ってきてしょうがない。
「ユーリ、前っ・・・」
「え?・・・うわっ」
 つんッと躓き、ユーリの体が前へ傾ぐ。
 それを二歩ほど後ろを付いてきていたコンラッドが慌てて支えた。
「だから言ったのに。大丈夫ですか?」
「平気だから放せ・・・っ」
 ぶんぶんと腕を振り回してみる。
 掴まれた瞬間から、彼が放そうとしないのは予測していたけれど。
 やっぱり外れない・・・。
「はーなーせーっっ」
「あまり大声出されると、更に注目を浴びますよ?」
「っっ」
 言われて確かに周りの視線がビシビシと伝わってくる。
 逢魔が時、すでに相手の顔もほとんど認識することが出来ない時間。
 そのせいで、不躾な視線は遠慮がない。
 背後から守られるように抱きすくめられ、結局抵抗できずにユーリは大人しくなる。
「・・・すみません、度が過ぎました」
「・・・・」
「あなたがあまりにも綺麗だから、つい」
「ついであんたはあんなところであんなことをするのかっ?!」
 「つい」と言う言葉に思わず振り返り、コンラッドの襟首を鷲掴んでガクガクと揺さぶった。
 相手は場にそぐわぬほど爽やかな"苦笑"を浮かべている。
 祭を見ていた間は浴衣だった彼も、ノーカンティを乗るのに浴衣では彼女を操りにくいので、と行き帰り(つまり今)はいつもの軍服に変わっていた。
 彼が着ていた浴衣は、今はユーリの腕の中。
 ・・・まぁ今はコンラッドを締めている最中なので浴衣は下に落とされているが。
「いやぁ、ユーリだってまんざらじゃな・・・」
「だーれーがーだー・・・っ」
 ぎりぎり襟首を締め上げて、ユーリは恨みがましく呻った。
 そもそもそうさせたのはこいつで、そういう風に"馴らした"のもこいつの責任だ。
 何も知らない真っ白な自分を、あーんな風にしたのはこいつの責任だっ!!
「こんのエロじじぃ・・・っ」
「ユーリ、あまり力を強められると苦しいのですが・・・」
「そうしてるんだから当たり前だろーがっ!!」
 あーもうっ!
 全然懲りてない恋人に、それでも敵わないと思うのはどうしてなのか。
 がっくりと肩を落としつつも、寄りかかるように身を摺り寄せる。
 そんな仕草がコンラッドの理性に火を注いでいるとも知らないで。
「あー・・・もう戻んなくちゃだよな」
「そうですね。今日は昼過ぎからずっと出ていますから、明日からはまた仕事に励んでいただくことになります。」
「ちぇー」
「休憩には、キャッチボールしましょう。・・・ね?」
 抱きついたままのユーリの髪を梳いて、コンラッドは微笑んだ。
 それから手を背に回し、ポンポンと叩いて。
 それを合図とするかのようにユーリはコンラッドから身を起こす。
「じゃぁ、戻ろっか」
「ええ」
 機嫌が直ったことにホッと胸を撫で下ろし、頷いた。
 落とされた浴衣を拾い上げ、ユーリに手渡し。
 そうして賑やかな大通りを通り過ぎ、ノーカンティが繋がっている脇道へと足を向ける。
 そこへ―――。

 バシャンッ!

「―――え?」
「ユーリっ」
 ふわりと体が沈む感覚がして、ユーリは目を見開く。
 無意識に腕にある浴衣を抱きしめて背後を振り返ろうとした。
 だが、そうする前に体は何か強い力に引っ張られて意識もそちらへと持っていかれる。
「ユーリ!!」
 コンラッドの焦った声に内心で苦笑いを浮かべて。
 すでにその状況下に慣れ始めた思考がちょっとだけ悲しい。

 いつものスターツアーズ。

 どうやらさっき頭上から落ちてきたものは水で、それを自分は思いっきり被ってしまったらしい。
 足元に出来た水溜りから引きずり込まれ、あとは水流に呑まれて向こうの世界に到着する。
(今回は随分と短かったな)
 醒めた思考でそう思い、ふっと遠くを見つめた。
 ・・・短いながらに随分と濃密な時間を過ごさせてもらったものだ。
 ははは・・・、と乾いた笑いを漏らし、それを最後に激しい水の抵抗に意識は吹き飛んだ。


 □■□■□


「・・・・・・・ぷはぁっ!!」
「やぁ、お帰りー」
 ひらりひら、と手を振る親友を見て、「ああ、戻ってきたのだ」と認識する。
 それからほぅ、と全身の緊張を解いた。
「どう?彼の浴衣姿はばっちり見れた?・・・・・・・・まぁ、君の浴衣姿のほうがお気に召したみたいだけど」
「あー、やっぱりおれの目に狂いはなか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わぁぁぁぁぁっ!!!」
 村田の言葉を最後まで認識したユーリは、漸く彼が自分の肌蹴た胸元をまじまじと見つめていることで思い出す。

 そうだったそうだったそうだったっっ

 赤い花弁が散った体を隠すように、ユーリは慌ててびしょびしょの浴衣の前を掻き合わせた。
 そこではたと気づく。
 手にある浴衣も、もちろんびしょびしょ。
「・・・今から着るんだよな、コレ・・・」
「そうだねぇ、でもこれじゃあ着れないよね」
 途方に暮れて見つめている浴衣を、村田も見下ろして頷いた。
 しかもヨレヨレのシワシワ。
 それはコンラッドがコレを着たままで常識はずれなことをしてくれたせいだけど・・・。
「ど、どうしよう村田・・・」
「うーん、こればっかりはどうもこうも・・・」
「ゆーちゃーん?タオル濡らしてくれ・・・・・、ゆゆゆゆーちゃんっ?!その格好はどうしたんだいっっ」
「げっ」
 突如現れた、今現在一番現れて欲しくない人物にユーリは顔を顰めた。
 それからちらりと村田を見、その村田も困ったように肩を竦めて笑っている様子にユーリは項垂れた。
「何があったの?!コレはどういうことだ?!ゆーちゃん解るように説明しなさいっ」
「あーと、うーと、えーと・・・」
「ああ、ほら。どうせだからもうここで着替えたらって言ったんですけど、タオル濡らそうとしたらちょっと水道の調子が悪かったみたいでびしょ濡れになっちゃったんですよ。なぁ、渋谷?」
「そそそそそうなんだっなぁ村田!」
 なーっと同時に首を傾げてにっこり笑う若人を、勝馬はじと目で見つめ返す。
 む、無理だったか・・・。
 そう思って二人顔を見合わせたとき。
「・・・まぁ、頼んだ俺も悪かったからな。まったく、どうなっているんだここの水道は?」
 二人の脇を擦り抜け水道に近づいた。
 きゅっと捻って出てくるのは、当たり前ながら水。
 だた、それに異常はなく、普段通りに水を汲み上げるモーター音と流水の流れる音。
「? 何にもないよ?」
「あれー?さっきまで水飛ばしまくってたのになぁー」
 おかしいなぁー、とかなり不自然に首を傾げた村田をユーリは半ば感心して見ていた。
 よくもまぁ、あれほどの嘘八百が出るわ出るわ。
 そのおかげで一応自分も助かったわけだが。
「取り敢えず、そんな格好じゃ風邪を引いてしまうから、一度家に戻ってシャワーを浴びてきなさい。俺の浴衣は・・・・」
「・・・えーと・・・コレ」
 視線の先にある浴衣を取り上げ、ばさりと広げて見せる。
 ところかしこシワだらけの泥だらけ。
 予想通り、勝馬の眉間に眞魔国の宰相並みな皺が出来た。
「・・・・どーしてこんなに皺だらけなんだ?」
「・・・・さぁ?」
 明後日の方角を見ながら返す。
 まさか本当のことを言えるはずがない。
 多少苦し紛れでも、取り敢えず逃げ切らなければ。
「・・・まぁ、いい。奥さんには文句言われそうだけど。まずは着替えるのが先だ。そう言えばさっきから気になっていたんだけど、ゆーちゃんの首、紅いの付いてるよ?」
「・・・え?――っ!!」
 伸びてきた腕に首筋を擦られ、ユーリは慌ててばっとその場所を押さえた。
 油断していた。
 取り敢えず前は完全防御していたので見られなくて済んだが、首は失念していた。
 思わぬ反応に目を見開いている勝馬に、脇で村田が「あ〜あ」と右手で顔を覆っている。
「あ、あのっこれは蟹・・・じゃなくてっ"蚊"に刺されたんだよ、蚊にっ!!」
 驚愕が胡乱な目に変わり、ユーリ自身もそろそろやばいかなと後ずさる。
「ゆ・ー・ちゃ・ん?」
「後は頼んだ村田!じゃっ」
「あっこら渋谷!」
 長居するだけドツボに嵌る。
 濡れたもう一枚の浴衣を抱きしめ、ユーリは家へと走った。



 抱きしめたソレからは微かなあの人の匂い。
 包み込まれるような優しさを思わせる、大好きな人の匂い。
 そんな皺の寄った浴衣を抱きしめて、ユーリははにかむ様に微笑んだ。




 えー、ゆかたびら。帰還編?です。
 暑中お見舞いから始まったコレがここまで続くとは実は思ってませんでした(笑)
 取り敢えず翌日編の続きになるわけなのですが、そもそもその翌日編がまだ出来てないと言う・・・。←おバカ
 何せそれも裏なもので(苦笑)
 取り敢えずこれを残暑見舞いとして無事終了となりますv
 良ければお持ち帰りくださいw
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